求人票の「固定残業代」に隠された違法パターンと未払い給料を自力で回収する手順
仕事の攻略本 編集部 ➔
キャリア戦略・転職リサーチ担当
「うちの会社はみなし残業制(固定残業代)だから、どれだけ残業しても追加の残業代は出ないよ」
経営者や人事担当者からこのように説明され、疑問を抱きつつも夜遅くまで働き続けている人は少なくありません。しかし、労働基準法を盾にしたこの「みなし残業だから残業代は出ない」という主張、実は高い確率で違法・無効です。
固定残業代制度は、あくまで「一定時間の残業代をあらかじめ定額で支払う仕組み」に過ぎず、労働基準法の上限を超える働かせ方を免罪するものでも、超過した残業代を踏み倒すための制度でもありません。
現在、未払い賃金の請求時効は3年です。もしあなたの会社の固定残業代が違法・無効であれば、過去3年間にさかのぼって、数十万〜数百万円規模の未払い残業代を回収できる可能性があります。
この記事では、固定残業代に潜む「違法パターン」の見分け方と、自力で未払い給料を回収するまでの具体的な手順を実務レベルで解説します。
1. あなたの会社は大丈夫?固定残業代の4大違法パターン
固定残業代(みなし残業)が裁判や労働基準監督署の是正勧告によって「無効」と判断されるのは、主に以下の4つのパターンに該当する場合です。
① 「基本給と残業代」が明確に区別されていない(判別不能)
もっとも多い違法パターンです。給与明細や雇用契約書に「月給30万円(残業代含む)」とだけ書かれており、基本給がいくらで、固定残業代がいくらなのかが明記されていないケースです。 裁判例では、**「基本給部分と割増賃金(残業代)部分が明確に区分されて合意されていなければ、固定残業代としての支払いは無効」**とされています。この場合、30万円すべてが「基本給」とみなされ、行ったすべての残業に対して1.25倍の残業代がまるまる未払いとして発生します。
② 固定残業代に対応する「想定時間数」が書かれていない(または違法な時間設定)
「月給25万円(内、固定残業手当5万円)」と書かれていても、「5万円が何時間分の残業に該当するのか」が示されていない場合です。 また、時間数が書かれていても「固定残業100時間分を含む」など、労働基準法の上限(原則月45時間)を大幅に超えるような設定をしている場合も、公序良俗に反し制度自体が無効とされる可能性が極めて高いです。
③ 設定された想定時間を超えて働いたのに、超過分が支払われない
例えば「固定残業30時間分(5万円)」と設定されている場合、当月の残業が40時間だったならば、超過した10時間分の残業代は別途支払われなければなりません。 「定額さえ払っていれば、どれだけ働かせてもいい」という解釈は完全な違法行為です。
④ 固定残業代を引いた基本給が「最低賃金」を割り込んでいる
「基本給17万円+固定残業代8万円=月給25万円」といった一見すると問題なさそうなケースでも、基本給17万円をその月の所定労働時間(例: 160時間)で割った時給換算額が、お住まいの都道府県の「最低賃金」を下回っている場合、最低賃金法違反となり無効です。
2. 未払い残業代を回収するための「証拠集め」
会社に残業代を請求するにあたって、最も重要なのが「客観的な労働時間の証明(証拠)」です。タイムカードが偽装されていたり、PCをシャットダウンした後にサービス残業をさせられている場合でも、以下の代替証拠を組み合わせることで労働時間は十分に立証できます。
- 雇用契約書・労働条件通知書・就業規則(固定残業代の規定を確認するため)
- 給与明細(直近3年分)
- タイムカードのコピー、または勤怠管理画面のスクリーンショット
- PCの起動・シャットダウンのログデータ(イベントビューアー等から抽出可能)
- 送信メール・チャットの履歴(深夜や早朝の送信履歴は強い証拠になります)
- Googleマップの「タイムライン」機能(位置情報に基づく滞在時間の履歴)
- 手書きの業務日記・メモ(毎日、何時から何時まで、どのような業務を行ったかを詳細に記録したもの。スマートフォンのメモアプリに日付とともに記録したものでも可)
⚠️ 注意: タイムカードの打刻後の残業 会社から「定時でタイムカードを押してから残業しろ」と指示されていた場合、その指示があったメールやチャットの画面、または指示された日時をメモに残してください。「会社側の強制」があったことを証明できれば、打刻後の残業時間も全額請求できます。
3. 自力で残業代を回収する4つのステップ
未払い残業代を回収するためには、闇雲に行動するのではなく、以下のロードマップに沿って段階的に手続きを進めるのが最も効果的です。
- ステップ①: 証拠の収集・保全 タイムカード、給与明細、PCの起動ログ、業務メールなどの「働いた証拠」を、会社に気づかれないように集めます。
- ステップ②: 正確な残業代の計算 基本給から手当や固定残業代を除いた「基礎時給」を算出し、法的な割増率(1.25倍〜)を掛けて不足額を割り出します。
- ステップ③: 内容証明郵便による請求書の送付 「内容証明郵便(配達証明付き)」で会社へ請求書を送ることで、3年の時効を一時的に(6ヶ月間)ストップさせ、会社へ強いプレッシャーをかけます。
- ステップ④: 会社の対応に合わせた法的手段(労基署・労働審判)
- 会社が交渉に応じる場合: 合意書を作成し、未払い分の支払い・入金を確認します。
- 会社が無視・拒否する場合: 集めた証拠を持って「労働基準監督署へ申告(是正勧告)」を行うか、裁判所での「労働審判」を申し立てて速やかに解決を図ります。
ステップ①: 正確な残業代を計算する
基本給から固定残業代部分を除外し、時給(基礎賃金)を出します。そこに時間外労働の割増率(1.25倍、深夜は1.5倍)を掛けて、日々の実労働時間との差額を計算します。 (※自分で計算するのが難しい場合は、Excelの残業計算シートを使うか、専門の計算ツールを活用します)
ステップ②: 会社へ「内容証明郵便」を送る
残業代の請求権利は3年で時効を迎えますが、会社に対して**「内容証明郵便(配達証明付き)」で請求書を送付することで、時効の進行を6ヶ月間ストップ(催告)**させることができます。 内容証明には、「〇年〇月〜〇年〇月までの時間外労働に対する割増賃金〇〇円の支払いを求める」旨と、振込期限、期限内に支払われない場合は法的手段をとる旨を記載します。
ステップ③: 労働基準監督署(労基署)へ申告する
会社が内容証明を無視したり、支払いを拒否した場合、集めた証拠を持って所轄の労働基準監督署へ行きます。「労基法第37条違反(割増賃金未払い)」として申告窓口で書類を提出します。 証拠が十分であれば、労基署から会社へ対して「是正勧告(残業代を払いなさいという行政指導)」が出されます。多くの企業は、労基署の指導が入ると未払い残業代の支払いに応じます。
ステップ④: 解決しない場合は「労働審判」へ
それでも解決しない悪質なケースでは、裁判所での「労働審判」を申し立てます。原則3回以内の期日で審理が行われるスピーディーな手続きで、弁護士を立てずに自力で行うことも可能です。
4. まとめ:まずは回収可能性を判定しよう
「固定残業代だから」と諦めて、タダ働きを受け入れる必要は一切ありません。法律のルールに則って正当に計算すれば、あなたのこれまでの労働は大きな資産に変わるはずです。
もし「今の会社はブラック企業かも」「残業代がいくら未払いになっているか知りたい」と感じたら、まずは当サイトの未払い残業代チェッカーをお試しください。基本給や残業時間、会社のルールを入力するだけで、あなたが回収できる可能性のある残業代の推定額を即座にシミュレートできます。
また、会社の労働環境全体に違法性がないか客観的にチェックしたい場合は、ブラック企業 洗脳度診断であなたの「社畜危険度」を判定してみましょう。
自分の権利を守り、正当な対価を受け取るための第一歩を踏み出しましょう。